品質
PRINCE2 の品質プラクティスの目的は、プロジェクト成果物に関するユーザーの要件を文書化し、それらを満たす手段を確立すること。品質とは、成果物がユーザーの要件・期待を満たし、望ましいベネフィットを実現できることを指す。
品質はプロジェクトの最後にテストするだけではなく、すべての工程に組み込まれるべきものである。PRINCE2 では「成果物重視」の原則に基づき、要件を成果物の受け入れ基準と品質仕様に変換する成果物ベースのアプローチを採用する。
基本定義
| 用語 | 定義と役割 | 記載場所 |
|---|
| ユーザーの期待品質 | プロジェクト成果物に対してユーザーが抱く期待 | プロジェクト成果物記述書 |
| 要件 | 承認されたマネジメント成果物に文書化されたニーズや期待。(文書化されていないものはスコープ外とみなされる) | 成果物記述書など |
| 受け入れ基準 | ユーザーに成果物を受け入れてもらうために満たすべき基準の優先順位付きリスト。(ビジネス側の能力や機能を記述する) | プロジェクト成果物記述書 |
| 品質仕様 | 成果物が満たすべき具体的なレベルと測定方法の記述。(規制要件や組織の方針も反映される) | 成果物記述書 |
品質マネジメントの3 要素(ガイダンス)
品質マネジメントの3要素
| 要素 | 主な活動内容 |
|---|
| 品質計画(QP) | 主要成果物の特定、品質仕様の策定、品質マネジメント・アプローチの作成と承認 |
| 品質コントロール(QC) | 合意された手法の実施、課題評価、例外の提起、成果物の承認取得 |
| 品質保証(QA) | 計画とコントロール技法が適切であることを独立した立場で保証する |
品質計画
- ユーザーの期待品質の文書化: プロジェクトの始動時にプロジェクト成果物記述書にユーザーの期待品質を記載する。
- 品質許容度の合意: すべての基準を完璧に満たすリソースは稀であるため、利害関係者やプロジェクト委員会と連携し基準に優先順位を付け、許容される偏差を合意する。これにより例外によるマネジメントが可能になる。
- 成果物の説明:
- 成果物記述書: 目的・構成・品質仕様・責任等を定義する。
- 成果物登録簿: 全成果物のリストとステータスを管理する。(ここへの登録がベースラインへの組み込みを意味する)
- 成果物の持続可能性: 環境インパクトと寿命を通じたベネフィット維持の特徴を含める。
- 品質責任の明確化:
- プロデューサー: 成果物開発に実行責任を持つ人またはグループ
- レビュー担当者: 品質標準や受け入れ基準を満たしているかの評価に実行責任を持つ人またはグループ。(利益相反を避けるため、プロデューサーとは無関係の立場が推奨される)
- 受け入れ権限者: 成果物が受け入れ可能かどうかの判断に実行責任を持つ個人またはグループ。(プロジェクト委員会または委任された者。委任は品質マネジメント・アプローチに記載される)
品質コントロール
成果物が標準に準拠しているかモニタリングし、不備の原因を最小化する。
- 実施のタイミングと手法:
- 開始時期: 成果物記述書が承認され、成果物登録簿に記録された直後から開始される。
- 新規・未経験の成果物: 本格的な作成の前に、プロトタイプや作成方法そのものを評価・検証する。
- 成熟した成果物・既製品: デリバリー時の検査に焦点を当てる。
- 品質登録簿の役割: 品質コントロール活動のすべてを記録するプロジェクト・ログの重要なコンポーネントである。
- 活動のレコード: 各成果物の承認から始まり、計画または実際に発生したすべての品質活動を特定する。
- 情報の提供: ステージ終了報告書やプロジェクト終了報告書の根拠となるデータを提供する。計画と実績を比較し監査や品質保証のための情報として活用する。
- 更新サイクル: 品質活動が完了するたびに、その結果を要約形式で反映し最新の状態を保つ。
- 体制とリソースの統合: 品質コントロールはプロジェクト・マネージャー一人で行うものではなく、組織的な協力が必要である。
- 協働体制: プロジェクト・マネージャー・プロジェクト保証・特定領域専門家が連携して実施する。
- 計画への組み込み: 専門家の支援が必要な品質活動は、WBS・スケジュール・プロジェクト予算に明示的に組み込まれなければならない。
品質保証
- 性質: プロジェクト・チームから独立した立場(通常はビジネス担当)による実施。
- 焦点: プロジェクトの品質コントロール対策が適切であることを保証することに重点を置く。
- 活動: 成果物に焦点を当て、始動からクローズまでのライフサイクル全体を通じて計画的・体系的に行われる。
技法
PRINCE2 品質技法
| 技法 | 重点 | 実施時期 |
|---|
| 検証(Verification) | 暫定成果物に品質仕様や基準が反映されているか | 実際の成果物ができる前の設計・開発段階 |
| 妥当性確認(Validation) | 成果物が品質仕様と受け入れ基準を満たしているか | テスト中または成果物の完成後 |
| プロトタイピング(Prototyping) | 機能へのフィードバック取得や作成上の懸念把握 | 反復的デリバリーに不可欠 |
| テスト(Testing) | 想定される利用環境に近い条件下での動作確認 | 開発過程で複数回実施 |
| 検査(Inspection) | 成果物が仕様や基準に準拠しているか | 主にデリバリー時 |
| 認定(Certification) | 業界の規制や要件への準拠を証明する | 主にデリバリー時 |
計画立案技法
- ユーザーインプットの収集: プロジェクト成果物記述書を主なインプットとして、成果物記述書と品質マネジメント・アプローチの2つを導き出す。
- 成果物記述書の作成: 上位レベルの要件を測定可能な品質仕様に変換する。
- 定量的尺度: 数値化された要件(例: 100 名が同時利用可能)。
- 定性的尺度: 記述的表現(例: 使いやすさ)。客観的評価のためユーザーの習熟度などを併記する。
- 機能要件: 成果物がどう機能し、どう使用されるべきか(目的に対する適合性)。
- 非機能要件: セキュリティや信頼性など固有の特徴(用途に対する適合性)。
- 品質マネジメント・アプローチの定義: 品質コントロールの組織化・実施・モニタリング・報告方法に重点を置く。品質標準・使用ツール・報告取り決め・役割と責任を記載する。
プラクティスの適用
組織的な状況
- 品質マネジメント・システムの確認: 組織やプログラムが義務付けられた品質保証活動を実施するためのシステムや専門知識を有しているかを確認する。
- 外部品質標準の適用: 規制の厳しい環境では、成果物記述書とワーク・パッケージ記述書にこれらの標準を反映する。
商業的な状況
- 透明性の確保: 契約書において、サプライヤーが実施する品質コントロールやその報告プロセスに透明性を持たせるよう明記する。
- 基準の整合性確認: 契約上の品質・受け入れ基準と、成果物記述書やプロジェクト成果物記述書に記載された基準が食い違わないよう注意する。
デリバリー手法
- 直線的かつ連続的(ウォーターフォール): 成果物記述書や品質仕様を高い詳細度で作成できる。不確定な要素には早い段階で対処できるようデリバリー順序を設計し、後半ステージでのリスクを抑える。
- 反復的かつ段階的(アジャイル): 品質仕様や受け入れ基準はスプリントごとに達成すべきゴールとして扱う。要件や品質仕様はプロダクト・バックログに登録し優先順位を付けて管理する。
規模
- 品質コストの最適化: 適切なレベルの品質計画とコントロールによって、成果物の不具合による潜在的なコストを相殺することを目指す。品質仕様や受け入れ基準を必要以上に厳しく設定するとプロジェクト全体のコストが大幅に増加するリスクがある。
- 品質レビューの評価観点: 完成度・準拠性・適合性の3 点を中心に評価を行う。
プラクティスを支援するマネジメント成果物
成果物記述書
- 目的: 成果物の目的・構成・派生元・品質仕様を記述する。
- コンテンツ概要:
- 識別子: 成果物名、またはプロジェクトに多数の成果物がある場合は一意の識別子
- バージョン: 成果物記述書の現在のバージョン番号
- 目的: 成果物の目的・使用方法・使用者
- 構成: 成果物のコンポーネントまたはパーツのリスト
- 品質仕様: 成果物の機能要件および非機能要件、およびそれらに関連する測定値
- 品質許容度: 主要な品質仕様の変更が受け入れ可能な範囲
- 責任: 成果物のプロデューサー・レビュー担当者・受け入れ権限者
品質マネジメント・アプローチ(プロジェクト立ち上げ文書の一部)
- 目的: プロジェクト中に必要な品質仕様と受け入れ基準を達成するために適用される品質技法と標準・役割・責任を説明する。
- コンテンツ概要:
- スコープ: 品質マネジメント・アプローチのスコープに含まれる成果物と作業の説明
- 品質マネジメント手順: プロジェクトの品質計画および品質コントロール活動の説明
- 責任: 品質計画とコントロール活動の責任の定義
- リソース: 品質計画・コントロール・保証活動で使用するリソース
- 標準: 品質マネジメントに適用される標準
品質登録簿(プロジェクト・ログの一部)
- 目的: 計画された、または発生したすべての品質マネジメント活動を要約する。
- コンテンツ概要:
- 品質の識別子: 品質活動の一意の参照コード
- 成果物識別子: 品質活動の対象となる成果物の識別子
- 品質手法: 活動に関連する品質手法
- 日付: 活動の予定日と実施日
- 結果: 成果物の成否および、失敗した場合の対応の示唆
成果物登録簿(プロジェクト・ログの一部)
- 目的: 計画に必要なすべての成果物と、その成果物のステータスのリストを作成する。
- コンテンツ概要:
- 成果物識別子: 成果物の識別子
- 日付: 成果物記述書の承認日および成果物の受け入れ日
- ステータス: 成果物のステータス(開発中・受け入れ中など)と現在のバージョン番号
主要な役割と責任
| 役割 | 主要な責任 |
|---|
| ビジネス・レイヤー | ビジネスの品質マネジメント・システムと適用可能な基準の詳細を提供する。プロジェクト・レベルの品質許容度を設定する。品質保証の専門知識を提供する |
| プロジェクト・エグゼクティブ | プロジェクト成果物記述書を承認する。品質マネジメント・アプローチを承認する。ステージ・レベルの品質許容度を設定する。プロジェクト成果物の受け入れを確認する |
| シニア・ユーザー | ユーザーの期待品質および受け入れ基準を提供する。プロジェクト成果物記述書を承認する。品質マネジメント・アプローチに合意する。プロジェクト成果物を受け入れ、受け入れに説明責任を負う |
| シニア・サプライヤー | プロジェクト成果物記述書を承認する(該当する場合)。品質マネジメント・アプローチに合意する。成果物開発で採用されている品質技法とツールに合意する |
| プロジェクト・マネージャー | ユーザーの期待品質と受け入れ基準を把握しプロジェクト成果物記述書で文書化する。品質マネジメント・アプローチを準備する。成果物記述書を策定・保持する。チーム・マネージャーが品質コントロール対策を実施していることを確認する |
| チーム・マネージャー | 成果物記述書との一貫性を保ちチーム計画書のスコープ内で成果物を作成する。ワーク・パッケージ記述書で合意された品質マネジメント手順を実施する。成果物の品質ステータスについてプロジェクト・マネージャーに助言する |
| プロジェクト保証 | 品質マネジメント・アプローチについてプロジェクト・マネージャーに助言する。品質マネジメント・アプローチがビジネスの方針に準拠していることをプロジェクト委員会に確認する |
| プロジェクト支援 | 品質コントロールでの事務管理支援を提供する。成果物登録簿や品質登録簿を策定および保持する |
原則との主要な関係
| 原則 | 達成方法 | 結果 |
|---|
| ビジネス正当性の継続の確保 | ビジネス・ケースに求められる品質仕様を満たす成果物を設計・提供する品質マネジメント・アプローチを策定する | プロジェクト成果物が望ましい成果を達成し、全体的なビジネス戦略との整合性を維持することを保証する |
| 成果物重視 | プロジェクト成果物をすべての品質計画およびコントロール活動の基準として用いる | 利害関係者との効果的なコミュニケーションと、ユーザーの期待品質を巡る対立の回避 |
| 例外によるマネジメント | プロジェクト立ち上げ文書でプロジェクト委員会が承認する品質許容度を確立する | プロジェクト・マネージャーが決定を下し、例外を報告するための効率的な手段 |
| プロジェクトに合わせたテーラリング | デリバリー手法と成果物の特徴に適した品質活動のみを要求する | プロジェクトの品質・デリバリー活動・リソースの適切なバランス |
他フレームワーク補足
| 概念 | PRINCE2 | PMBOK | PgMP |
|---|
| 品質マネジメントの3 要素 | 品質計画・品質コントロール・品質保証 | 品質マネジメント計画・品質コントロール・品質保証 | (今後追記) |
| 品質基準文書 | 成果物記述書・品質マネジメント・アプローチ | 品質マネジメント計画書 | (今後追記) |
| 品質活動記録 | 品質登録簿 | 品質コントロールの測定結果 | (今後追記) |
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